KOHII
Vol. 14 ほんの数時間だけ擬似体験

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Vol. 14 ほんの数時間だけ擬似体験

ちょっとコーヒー巡りをしませんか?行き交う人々、流れていく時間を見て感じながら、飲むコーヒーが絶妙に美味しいと思う私たちは、いつもコーヒーで繋がる街を歩くKOHII Walkersです。気の向くまま、コーヒーのアロマに溢れる街、それぞれコーヒーを楽しむ人々との出会いを独自の目線で写真ストーリーに記録し、ここでシェアします。 こうして同じ写真でコーヒー、ヒト、マチの関連性を描く人と繋がりたい、日本各地のKOHII仲間と一緒にコーヒーの魅力を広げていきたいです。 Ikumi, KOHII Walkers@Osaka

令和3年、10月。今やインターネットのおかげで全世界といつでも簡単に繋がれるこの時代に、私は誰も知らない場所に姿を消したくなっていた。 1日だけ、ではなく出来る限り長く。 とは言いつつも、実際に姿を消すなんてことは色々な面を考慮するとすぐにはできない。 国内ならまだしも、国外に出たいとなると今は厳しいものがあるし、越したあとに順調に生活できるような仕事の保障もない。 姿を消したいだなんて大口を叩いておいて、そんなのは言い訳だと言われると、たしかにそうなのだけれど。 それでも1日のうちの数時間でいいから、そんな擬似体験ができないかなと考えた。

周りも自分も、お互いに存在を知らない場所。 …昔ながらの、静かな喫茶店ならできるかも。

@ガロート珈琲

路面電車で何度か通ったことはあるが、降り立ったことは一度もない駅、東天下茶屋。 家からも職場からもそう遠くないはずなのに、この25年間歩いたことのない街を、まるで旅行にでも来たかのように、Google Mapを頼りにしながら歩く。 そして、ガロート珈琲にたどり着いた。

中では店主(喫茶店だがこの方はマスターと呼ぶよりも店主の方がしっくりくる)のこだわりが詰まったジャズミュージックが流れている。 急に曲が止まったと思えば、黒い棚にずらりと並んだCDの中から真剣に次の曲を選んでいる様子だった。 常連さんらしき男性とジャズや昔の映画について終始話している光景が、なんだか少し昔にタイプスリップしたような感覚にさせてくれる。

しばらくすると、コーヒーの香ばしい香りがこちらの方まで漂ってきた。 実は、私はこの店でひそかに楽しみにしていたことがある。 それはファイヤーキングのマグでコーヒーが飲めること。 「ガロート珈琲」と調べて出てくる写真には、どれもこのマグが写っていた。 普段から食器に特別こだわりがあるわけではないけれど、このファイヤーキングのマグは触れたことがなかったので気になっていた。 透けきっていない絶妙なグリーンカラーと、艶があるのにしっとりとしている質感が最高。 もちろん中に映るのは、喫茶店では王道の熱いブラックコーヒー。 「こんなマグでコーヒー出すとか、粋な店やなぁ。」と、早々にガロート珈琲さんに惚れ込んでしまった。

知らない街の初めて行く喫茶店、あとから振り返っても、週末の午後に来た「ただの客」のひとりになれただろうか。 この日はあえて店主や常連客と話はせず、少しゆっくりしたあとで店を出た。

@喫茶タンポポ

店の名前って、濁点が付くと縁起が悪いらしい。ここの「喫茶タンポポ」のマスターが教えてくれた。 その理由で半濁点が2つもあるタンポポと名付けて、50年も店を続けられているんだから間違いないよって。 28歳で店を開いてからこれまでの歴史を、孫に話しているかのように優しく、そして嬉しそうにニコニコと話すマスターを見ていると、50年続けてこれたのは店名だけが理由ではないことがすぐに感じ取れた。

知り合いの大工さんと2人だけで店を作り上げたこと。床のタイルがタイルコレクションの本に載って嬉しかったこと。入口のガラス扉にある模様は自分で貼ったこと。昔は警察官や郵便配達の方が休憩しにここへコーヒーを飲みにきていたこと。 そんな思い出話が次々と聞こえてくる空間には、たしかに当時の時間と現在とが同時に存在していた。 「今でも地方からわざわざ足を運んできてくれる人もいるんです。」 と、それはそれはまた嬉しそうに。

喫茶タンポポでもガロート珈琲でも、普段と同じくコーヒーを飲むという行為自体に変わりはないのに、いつもとはまるで違う感覚だった。 考え事をするわけでもなく、スマホを触るわけでもなく、ただ座ってコーヒーを飲むだけの時間。 一見退屈そうで、意味があるのかもわからない時間がこんなにも自分に必要だったなんて。

無意識のうちにありとあらゆる情報を自ら摂取し、これでもかと言うほどに早く過ぎていくこの令和の時代。そしてそこに風の時代という言葉がさらに上乗せされている今、私は少し気疲れしていたのかもしれない。 でも、時間を止めることなんてできないから、「今」ではない空間をせめて一瞬だけでも感じたかったのだろう。 お二人の淹れてくれた温かいコーヒーとあのゆったりとした空間は、そんな私を察するかのように私の求める場所に導いてくれた気がした。

<About Ikumi>

大阪在住。コーヒーとは無縁だったが、2020年初春、エチオピアの味に感動しコーヒーに興味を持つ。趣味はアート制作、映画鑑賞、食べること。アート制作は主に抽象画を描いていて、自分の中で残したい感情が湧き上がったときに描いている。

<今日のKOHIIコース>

@ガロート喫茶 大阪府大阪市​​阿倍野区阪南町2-21-26 @喫茶タンポポ 大阪府大阪市住吉区東粉浜3-10-8 A cup of KOHII with Love (執筆・編集:Ikumi)

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