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Vol.28 人波を超え、海鳴りがきこえる街へ

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Vol.28 人波を超え、海鳴りがきこえる街へ

ちょっとコーヒー巡りをしませんか?行き交う人々、流れていく時間を見て感じながら、飲むコーヒーが絶妙に美味しいと思う私たちは、いつもコーヒーで繋がる街を歩くKOHII Walkersです。気の向くまま、コーヒーのアロマに溢れる街、それぞれコーヒーを楽しむ人々との出会いを独自の目線で写真ストーリーに記録し、ここでシェアします。 こうして同じ写真でコーヒー、ヒト、マチの関連性を描く人と繋がりたい、日本各地のKOHII仲間と一緒にコーヒーの魅力を広げていきたいです。 Jongmin, KOHII Walkers@Kagawa

「どれほど正直に心を割っても、口に出してはならないものごとがあるよ。」 3年前、少しだけお付き合いした恋人に言われた言葉だ。思い出してしまった。もう忘れていると思っていた。いや、もう失っているのだ。旅の途中に時間ができれば、普段は考えもしない余計なことを考えてしまう。 私たちは答えを求め出た旅で、質問を考えてくることを忘れがちだ。心が虚しさを感じる時、人はその理由を探し旅に出る。しかし、結局は「虚しいという感情の正体はなんだ?」という問いに返ってくる。メビウスの帯のように繰り返されるジレンマ。だから先人たちは、「人生は旅のようなものだ。」といった例えをしたのだろうか。私は今回も質問を持たないまま、人波を超えて、海鳴りのきこえる街へと旅に出た。

宇野港からフェリーに乗って、瀬戸内芸術祭が開催されている直島へ向かう。船上に吹いてくる風がとても心地よい。雲が白く、空は青く、眩しい太陽の光に照らされ、輝く青い海を眺める。もしも明日が最後だとしたら、今日のような天気であってほしい。言葉に表せられない最高の天気だ。

午前9時、直島に到着して早速向かったのは直島の本村地区を中心に展開されている「家プロジェクト」。 島人が暮らす本村を散策しながら、作品を鑑賞する「家プロジェクト」は人々が暮らしていた時間と記憶を紡いだ空間、そのものが作品になっている。

中でも印象深かったのは、「南寺」。「南寺」は光の芸術家として著名な芸術家、ジェームズ・タレルさんの作品に合わせて、安藤忠雄さんが設計を担当した。実際の空間を体験してほしいので、詳しいことは書けないが、「暗闇の中で壁にぶつかり、前に進めない。しかし、その壁は小さな光がつくり出した幻想に過ぎなかったのだ」ということに気づく、衝撃的な体験ができた。

@Hifumiyo Coffee

「家プロジェクト」の7つの展示を巡り終えると時間は11時。昼時ではないけど暑い太陽の下で数時間歩くと、目が疲れてしまった。少しだけ島のコーヒー屋さんで休憩をすることにした。店の外でも、エスプレッソを抽出する香りが漂う。古い木材と瓦の建物から島のコーヒー屋さんという雰囲気が感じられる。

「Konnichiwa .」 店に入ろうとしたら、コーヒーをテイクアウトした欧米人の夫婦と目が合った。私は「こんにちは、良いお天気ですね。」と答える。夫婦は日本語がわからないのか、笑顔で挨拶し、僕の横を通り過ぎた。夫婦にとって、異国で過ごす「今日は」どんな一日だっただろうか。素敵な一日になることを願う。

店内が満席だったので、アイス・カフェラテをテイクアウトして、近くのベンチに座った。牛乳の甘みとコーヒーのフルーティーな甘さが上手く噛み合って味の相乗効果を生み出すラテだった。美味しい。暑い太陽の下で飲むから、なおさら美味しい。

直島には、建築家・安藤忠雄さんの代表作の地中美術館がある。 乾いた喉を潤したので、レンタサイクルのペダルを漕いで、次の会場へ向かう。スローに過ぎていく島の時間、そして風景。日陰に隠れ、乾いた土の上で遊んでいる子どもは島の風景となり、はじめて私という異邦人とつながる。

自身に与えられた役目を終え、陸に残された船の錘。錆びてしまった錘数は、この島が漁村であること、そして、かつて栄えていたことを想像させる。この小さな漁村が芸術祭で再び栄えると誰が想像しただろうか。この島にある一つ一つのモノが島の記憶が宿った展示物のようだ。

地中美術館に向かって、坂道を自転車で登ると、着ているシャツは汗まみれになった。厳しい坂を越えて、やっと到着した美術館。しかし、島全体が停電した。前々から予約していた美術館は臨時休館、チケットは払い戻し。

突然の出来事に驚き、情報を集めると、復旧の見込みが立っていないことに気づいた。とても残念な気持ちだけど、仕方なく港に帰ることにした。帰り、下り坂を駆け降りる時に吹いてくる風は涼しいけど、少し冷たくも感じられた。

@アカイトコーヒー

私たちは電気に依存した暮らしをしている。当たり前なことだけど、日常を過ごしていると電気の有難みに気づかされることはあまりない。港近くのほとんどのお店が休業状態。もちろんコーヒー屋さんもだ。お湯を沸かすポット、電動ミル、エスプレッソマシン、美味しいコーヒーを飲むのに必要なものは、豆や水に限らず電気も含まれているのだ。 一軒だけ、コーヒー香るお店があったので、もしかしてと思いながら入ってみた。

店内に入るとすぐに見える焙煎室。手回しの焙煎機がおいてある。それを見た瞬間、私は直感的に「ここでは、コーヒーが飲めるかもしれない」と思った。 静かに店内に入ると、店員さんが「停電中なので、ホットコーヒーしか出せませんが、大丈夫ですか?」と声をかける。なるほど、氷は溶けてしまったのか。と思いながら私は「大丈夫です。ブレンドコーヒーでお願いします。」と答えた。 この日、最高気温は26度。気持ちは少しだけアイスコーヒー寄りだが、この状況の中でコーヒーが飲めるだけでありがたいので、贅沢は言わないことにした。

窓から差し込む日差し、灯りが消えて、少し薄暗い店内。日陰で冷えた木材の椅子に座り、窓の外を眺めた。 "ガラガラ" 店員さんが手挽きのコーヒーミルで豆を挽く音。停電で音楽が流れないから、店内は静か。静寂が広がる。隣の話声がそのまま聴こえるかなと思ったら、なぜかお客様はみんな小声で話す。必要以上に音を上げる必要がないのだ。

沸々とお湯が沸く音が聴こえてからしばらく経て、店員さんが一滴一滴コーヒーをドリップし始めた。水が落ちる音に集中して気がつけば一杯のコーヒーが出来上がっていた。 窓から吹いてくるちょっとだけ涼しい夏の風。小鳥の鳴き声を聴きながら、一人考える。 一人で道を歩いている時、何の音もしない日々が退屈だと思っていた。だからイヤホンを耳にさして、音楽を聴いていた。しかし、日々が無音の世界だ、なんて私の思い込みだった。耳をすませば世界は自然の音に満ちていた。

停電のおかげで感覚が研ぎ澄まされた気がした。私が音だと思い込んでいたものすべてが実はノイズだったのかもしれない。 ノイズに巻き込まれ、余白のない現代人はすぐにでも自分を失ってしまうんだ。私は何に惑わされていたのだろうか。減らして、消して、そうやって感覚を磨いて見えてくる美しい現実とこれからも向き合っていきたい。

この小さな島で、たった一日過ごしただけだが、たくさんのことに気がついた。地中美術館は見れなかったけど、物足りない感じはしない。むしろ島の記憶、人、景色、音に触れて、島を出る頃には、心が何かに満ち溢れていた。 その何かは自分の生き方と世の中に対する「何が現実で、何が幻想か?」という問いかもしれない。やっぱり旅は質問を用意せずに出た方が良いかもしれない。先人たちの言葉に若僧の私が一言添えてみる。「人生は問い立てが続く、旅なのだ。」 海鳴りのきこえる街へ旅に出たけど、答えなんてどこにもなかったのだ。これから問い続けたい質問だけが、そこにはあった。

<今日のKOHIIコース>

@Hifumayo Coffee 〒761-3110 香川県香川郡直島町本村729-2

@アカイトコーヒー 〒761-3110 香川県香川郡直島町宮ノ浦2269

A cup of KOHII with Love (執筆・撮影:Jongmin)

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