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Vol.20 この小説の最後をもう一度書いてみる

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Vol.20 この小説の最後をもう一度書いてみる

ちょっとコーヒー巡りをしませんか?行き交う人々、流れていく時間を見て感じながら、飲むコーヒーが絶妙に美味しいと思う私たちは、いつもコーヒーで繋がる街を歩くKOHII Walkersです。気の向くまま、コーヒーのアロマに溢れる街、それぞれコーヒーを楽しむ人々との出会いを独自の目線で写真ストーリーに記録し、ここでシェアします。 こうして同じ写真でコーヒー、ヒト、マチの関連性を描く人と繋がりたい、日本各地のKOHII仲間と一緒にコーヒーの魅力を広げていきたいです。 Jongmin, KOHII Walkers@Tokyo

私は村上春樹の文章が好きだ。ジャズ喫茶を経営しながら真夜中1時間ずつ4ヶ月かけて少しずつ執筆し、群像新人文学賞を受賞した『風の歌を聴け』、これが彼の作品の中でも特に好きだ。 彼は小説家になると決めてから、あえて英語で文章を書き、日本語に翻訳する作業を繰り返したそうだ。シンプルで洗練された文章は、その変哲なこだわりから誕生したのだ。誠に勝手ながらエッセイを書くときは、彼のことを一度は思い出す。

人間はとても奇妙な生き物だと感じる瞬間がある。特に悩みがある訳ではないのに、自ら悩みを作り出している。遠くから眺めると、どれほど自滅する生き物に映るだろうか。それでも好きなことをしているから楽しいと自らを癒やす日々。自ら悩み、自らを癒す考え事を繰り返す中で、私はすべての感覚が鋭くなり、今、この瞬間生きているように思えてきた。そして、世界に私だけであるかのように感じられた。一人だけど寂しくはない。この感覚を通して満足感を得ていた。今、この瞬間に私はいる。

朝8:30 今日も東京は晴れ。暮らしの中で、特別な出来事と普通の出来事の両方が必要だと考える。ここは東京、私は異邦人。今日はいつも一緒に仕事をしているKOHIIメンバーの一人とともに、インタビューと撮影のため馬喰町に向かった。

初めて訪問する場所、田舎者には慣れないモーニングコーヒーを飲み、非日常を味わいながらも、いつものメンバーとの仕事だから少しだけ心が落ち着く。オンラインで事前にインタビューをしていたゲストも、実際にお会いすると予想通りの穏やかな方だった。近頃、人の良さはオンラインでもある程度伝わるんだと感じることが度々ある。 インタビューを終えて、KOHIIメンバーと浅草でコーヒーショップを巡ることにした。隅田川沿いを歩いて、浅草寺のある雷門あたりまで向かう。

KOHIIメンバーの彼はプロのフォトグラファーだ。河川敷を歩きながら、同時に街の風景を記録に残す。写真は本当に不思議なものだ。止まることなく連続的に流れていく物事を、瞬時に切り取る魔法のよう。 でも臆病者の私は写真を撮るとき、つい立ち止まってしまう。人の流れ、時の流れに身を任せられないまま、一旦立ち止まってしまうんだ。衝動的に思い切ってシャッターを切れないことは、自分の課題でもあった。

一方で、彼はレンズ越しで世界を見ることに慣れている。写真家の目という感覚がプロにはあるのか、被写体との距離、物事の見方、彼の写真家としてのこだわりを聴きながら、ゆっくり歩いた。 そういえば、自分は写真をきちんと習ったことが今までなかったような気がする。だから、自ら積み上げてきたノウハウを伝えてくれる存在はとてもありがたい。

@FUGLEN ASAKUSA

浅草に着いて最初に行ったコーヒーショップはFUGLEN ASAKUSA。100年以上前からコーヒー文化が続いているノルウェー・オスロ発のコーヒーショップ。FUGLENは、ノルウェー語で鳥を意味するらしい。

北欧スタイルのビンテージな家具が並ぶ店内。でも妙に日本の喫茶店のような雰囲気もあり、浅草という街に馴染んでいる気がした。東京のコーヒー好きたちの中では著名なコーヒーショップらしく、そのせいか、店内も賑わっていた。本日のコーヒーであったケニアAAを頼み、外の席で飲むことにした。

座ってゆっくりコーヒーを飲みながら、通り過ぎる人々を眺めた。コーヒーは不思議な時間を与えてくれる。それは、時をさかのぼってタイムトラベルをするような感覚。私たちが立ち止まっても世の中の全ては動いている。川沿いを歩いてきて足も疲れてきたので、二人でお互いのこだわりについて話し合いながら一休みした。

コーヒーが冷めて、肌寒くなり始めた時、夕空に響くカラスの鳴き声がした。一杯のコーヒーとともに止まっていた時間が再び流れ始めた。お家に帰る人々の群れに流されながら、私たち二人も一日の旅の最後に向かっていった。

@LUCENT COFFEE

最寄りの地下鉄駅に向かって歩いていると、見えてきたのがコーヒーショップ LUCENT COFFEE。こだわりのある男たちの話は始まりだすと止まらず、好きな画家や写真家についての話なんかはもうキリがなかった。このまま別れるのも少し話足りない気がしたので、もう一杯コーヒーを飲むことにした。 店内が撮影禁止だったから、むしろ話し合いに集中できた。エチオピアの浅煎りのコーヒーもとてもフルーティで、柔らかい味わいだったので、夕方に飲んでも疲れない素敵な一杯だった。

二人の写真話もついに幕引きの時間。 一日、写真を撮ると決め、レンズ越しで世界を眺めると、乾いた心がオアシスを見つけたかのように豊かになる。カメラは目の延長線にあるものではない。完全に別物だなと、体感した。今も多くの無名フォトグラファーが一人ひとりの感性で、東京を記録して、記憶し続けているだろう。誰かの記憶が宿った写真、素敵だ。

私たちは、一人だけど一人ではない。お互いの日常を、お互いの暮らしを少しずつ支えながら社会の中で生きている。社会の中で生きている私は、万人の助けがあって初めて私として存在できるのだ。寂しいけど、寂しくなんかない。ただ単に暮らしの中で生まれる喜怒哀楽の物語を、文字に、写真に残していきたいだけなんだ。残していれば、いつか誰かが続編を付け足してくれるだろう。

<About Jongmin>

韓国出身、大分住在。コーヒーを片手に彷徨う人。時々、コーヒースタンドのPOP UPイベントをしながら、2021年からKOHIIにて記事の執筆に関わる。物書き、写真が好き。コーヒーを通して、愛とか孤独といった目には見えない類の感情を大切にしたい。

<今日のKOHIIコース>

@FUGLEN ASAKUSA 東京都台東区浅草2丁目6−15

@LUCENT COFFEE 東京都台東区寿1丁目17−12 レモンビル 1F

A cup of KOHII with Love (執筆・編集:Jongmin)