KOHII
皆が幸せになるサステナビリティの形(前編)

Meets

皆が幸せになるサステナビリティの形(前編)

ゲスト

le fleuve (ル フルーヴ)ショコラティエ  上垣河大さん (本文中 K=KOHII、U=上垣さん)

まえがき

コーヒー豆も元は一つの植物の実。大自然に恵まれる私たちはそれを育て、収穫し、また職人の手で丁寧に焙煎、挽いて抽出し、美味しい一杯のコーヒーとして頂いている。 この至福を噛みしむたびに、ますます深刻になっている地球温暖化が、異常気象、農園生産から日常の食生活、消費文化まで迫っている中、コーヒーのこれからのことを自分に問い続けています。 KOHII x Sustainabilityでは、環境問題と真剣に向き合うため、オリジナルなコンセプト、独特な分野を創り出し、活躍している人たちと語り合います。コーヒー時間で彼らの活動からインスピレーション及びエネルギーを吸収しながら、コーヒーの将来的な可能性を新しい視点から見つめます。 第二回目のゲストは、le fleuve(ルフル―ヴ)の上垣河大さん。 上垣さんは、店舗を持たない工房だけのスタイルでチョコレートを専門にを製作するショコラティエ。ご両親が育てる蜂や鶏から蜂蜜や卵を分けてもらい、地産の果物や野菜、地酒や醤油のもろみなど、素材の豊かな味わいをお菓子で表現するその実力は、サロン・デュ・ショコラや一流百貨店で引っ張りだこ。熱い注目を浴びる新進気鋭の若手ショコラティエです。 ライフスタイルや働き方への考え方、製菓業界の現状とこれから、ご両親が営む麦畑自然農場についてなど、本当にたくさんの素晴らしいお話を聞かせていただきました。今回、3部構成で、上垣さんのストーリーをじっくりとお届けします。

兵庫県養父市、京都から3時間ほど車を走らせ到着した上垣さんのアトリエは、山と畑に囲まれた民家の一角にありました。空は広く、いつもより早く咲いた桜の花は新緑に変わりつつある清々しい4月の初め。日差しの強さにはすでに初夏へと向かう季節の移り変わりを感じましたが、車を降りると空気は驚くほどひんやり。思わずコートを羽織り直しました。 アトリエのあるご実家の前で私たちを出迎えてくださった上垣さん。 玄関先には、ご両親が営む養蜂用の巣箱が並べられ、日向に干してある巣板には小さな六角形がキラキラと集まる蜂の巣が。

普段滅多に見ることのない巣箱をしげしげと眺めていると、「今は蜂は別のところにいるんです。桜の蜜を集めに行っているけど、寒いからあまり採れないかも」と、上垣さんのお母様が教えてくださいました。

家の前を流れる清流にも、いくつか巣箱がさらされているのが見えました。一般的に薬品を使って洗浄される事が多いという巣箱を、ここでは一切薬品を使わず、熱や水を使って洗うのだそう。これから養蜂は旬を迎え、蜂たちは綺麗になった巣箱に乗って、花が咲き乱れる兵庫の山を飛び回り、ある時は岡山まで。忙しい時は夜通し高速道路を走って蜂たちを移動させるのだそうです。抗生物質も与えず、できる限り自然の力だけで養蜂を行い集めた蜂蜜は、「ハチだけの仕事」という名前。上垣さんのご両親と蜜蜂たちの努力の結晶が、チョコレートやお菓子になって全国の人々に美味しい時間を届けています。 アトリエの入り口には、ちょうど今日発送されるというクッキー缶が梱包されうず高く積まれていました。ご実家の一部を改装したというアトリエは左右ふた部屋に分かれていて、一つには石板を張ったピカピカの作業台、もう一つには大きなガスコンロや業務用オーブンが所狭しと並んでいます。 早速ここで、上垣さんにお話を伺いました。

K:お菓子作りを始めたきっかけは? U:ケーキや洋菓子のお店が身近にない環境で育ったので、食べたい時に自然と自分で作るようになりました。自分の好きなものを好きな味で作れるのが面白かったですね。

作業台の上には、味の経過を見ているというチョコレートが。 U:一応消費期限は2週間としているのですが、基本的にはすぐに食べてくださいね、とお伝えしています。これはどんなエイジングをするかを確認している所です。時間が経って、素材がより馴染み合う事で良くなることもあれば、いまいちなこともある。その時は作り方を変えます。火を入れていても、ブルーチーズを使ったチョコレートはチーズの熟成が進んで味わいが変わる事もあります。お菓子作りでは、出来立ての状態で美味しいだけではなく、お客さんの口に入るときに美味しい状態であること、そこから逆算してお菓子作りをしています。 例えば、配送でお届けする焼き菓子などには冷凍便を使うこともあります。出来立てが美味しいのは当たり前、だけど配送中に時間がどんどん経つと味が落ちてしまう。質が落ちた状態でお客さんの口に入り、その味が判断基準になってしまうんです。 冷凍というと悪いイメージがつきがちですが、ちゃんとした機械で瞬間冷凍させれば味は落ちずに美味しく食べられる時期が長持ちしてくれます。こんなに素晴らしい技術があるのだから、使った方がいいですよね。お届けする時には、お菓子に合わせた解凍方法も添えて梱包します。 ポーションはやや小さめに作ります。いいものを少しだけ、という考え方。もう一つ食べたいな、と思う量で、色々な食べ方で変化を楽しんでもらえるようにという気持ちもあります。ポーションの量や味のバランスには、作り手の考え方がしっかりあらわれると思っています。普段食事に行くお店でも、ついついポーションを見てしまう。(笑)ポーションの感覚が合うお店は、話も合うんです。 K:今、チョコレート市場はどんな様子ですか? U:この5年で、市場レベルはかなりアップしたと感じています。ショコラティエが主人公のテレビドラマやバラエティー番組で紹介されたりして、一気に認知度が上がりました。素材についての話も、この1~2年でよくお客さんのお話にも出てくるようになりました。そういう意味で追い風を感じますね。ただ、まだ全く基準の無い「フェアトレード」という言葉が先行した状態から抜け出せていないようなところがあったり、Bean to Bar (ビーントゥーバーとは自社でカカオ豆からチョコレートを作る一貫生産)と言ってもそれが本当に質が高いものなのか?という疑問や課題もまだまだあると感じます。 ショコラティエの仕事は、チョコレートを加工して色々なお菓子を作り出す事。カカオ豆からチョコレートを作る仕事とは違う専門分野です。もちろん、自分でカカオ豆をいちから焙煎して、挽いて、チョコレートを作ろうと思えば簡単に出来てしまいます。でも、その工程と、加工とで、それぞれに広くて深い世界がある。プロが長い年月をかけて磨いた知識と技術で作られたものには敬意を払って使わせてもらいます。 ここ数年では自分でカカオ選びからチョコレート作りにも取り組んでいます。やればやるほど難しく奥が深すぎて面白い分野の一つです。 K:最近、ソーシャルメディアなどでも他業種の方と対談をされたり、その他にも色々な発信をされていらっしゃいますね。そちらの様子はいかがでしょうか? U:業界としては、職人で横のつながりはあるけど狭い世界。最近では他業種とのコラボレーションブランドなども参入していますが、ビジネスとしてチョコレートの市場に入ってくることで、認知度が上がるのは良いのですが、業界の元々の職人気質との折り合いがうまくついていない事も少なくないと聞きます。 お金儲けが目的じゃない、美味しいものを作っているんだ、という気持ちは僕も職人なので分かるし、でも、それを拒絶してしまうのも業界全体の成長のためにならない。テクノロジーや他業種との連携をうまく取っていけば、もっと可能性は広がると思っています。だから僕は、外の世界と仲介するような存在になりたい、そんな気持ちで発信をしています。 U:あとは、お菓子職人同士で小さな労働組合みたいなものも作れたらなぁと思っています。お菓子作りって、手作業に加えて色んな機械も使うんですが、実は1年中フル稼働している機械ってほとんどないんです。買おうと思うととても高い機械ですが、お菓子を作って販売し、それを生業にいようと思うと、すべて手作業というわけにはいきません。 常々疑問に思っていたのが、僕の周りの菓子職人はレシピを教え合ったりというのはよくするのですが、一年を通してフル稼働しない機械があり、それぞれのお店で同じような機械を持っているんですね。店に並べるお菓子の品目が多ければ多いほど、たくさんの種類の機械が必要になって、作業工程も増えて、人件費も増える。その結果、利益が減り、簡単に削れるコストである材料費が削られる。それによりお菓子のクオリティが下がるという悪循環ができているように思います。うちのような個人店は作る品目を減らしてそれにすべての資源を集中させることで種類は少ないがお菓子のクオリティを高く維持するということに取り組んでいます。うちにないお菓子が欲しい方には他のお店を紹介することもできますしね。使っていない機械設備をお店同士でシェアできればより良いのではないかなとも考えています。 例えば、チョコレートやアイスクリーム、ジェラートなどは季節ものですが繁忙期が違います。うちには大きな冷凍庫があるのですが、夏場はチョコレートの季節ではないのであまり使いません。それを夏の間、ジェラート屋さんが使うとか。さらに、互いに閑散期の時に相手を手伝う事もできますよね。そんな風にできれば、働き手も波のある季節労働にならないし、場所やコストを他の大事なものに充てられるようになります。 開業支援や独立支援も含めて、5年計画、10年計画ではありますが、そんな仕組みを作れたらなぁ、と考えています。

中編は、上垣さんのオーガニックや食材の旬を味わう事への考え方について。お楽しみに!

<プロフィール>

上垣河大/うえがき こうだい 1989年兵庫県養父市生まれ。中学生の頃から家業である農業・養鶏・養蜂の仕事を始める。2009年、洋菓子マウンテン入店。お菓子とショコラを基礎から学び、2012年からはショコラを任される。2014年に独立。毎年ジェイアール京都伊勢丹にて開かれるショコラの祭典「サロン・デュ・ショコラ京都」には自身のブランド、ルフルーヴ(le fleuve)として、2016年から出店を続けている。ショコラのコンテスト、ジャパン・ベルコラーデ・アワード2017では最終審査進出、入賞。2019年より、「サロン・デュ・ショコラ東京」での出店。2020年世界的なチョコレートのコンテストICAアジアパシフィック部門で最高金賞受賞。次世代の若手ショコラティエとして活躍を期待されている。(公式ウェブサイトより)

a cup of KOHII with love  (編集者:Aya)

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